中国繊維・アパレル産業レポート

中国の繊維・アパレル産業の概況

中国の繊維産業は、改革開放以来、花形産業となり、下図の如く繊維産業の工業生産額は1990 年頃には一時工業総生産の50%前後を占めるまでに成長した。その後、その他産業の急激な発展により工業総生産が大幅に増加したため、シェアを落としたものの、国内外の需要拡大に支えられて一貫して生産額は増加を続け、2010 年度でも工業総生産の約30%、GDP の10%以上のシェアを占めており、中国経済にとって多大な影響を及ぼし続けている。

また中国の繊維産業は、世界で圧倒的シェアを持ち、世界の繊維生産におけるシェアは、右肩上がりで上昇を続けており、下図の如く2011 年度の化学繊維の生産量は世界総生産量の66%を占めるまでに成長している。

また中国の繊維及びアパレル輸出も堅調に推移しており、2009 年度の世界の繊維及びアパレル輸出額に占める中国のシェアは繊維で28.3%(2000 年は10.3%)、アパレルで34%(2000 年は18.2%)となっており、年々シェアを拡大してきた。

繊維・アパレル製品の輸出額は、2000 年の530 億米ドルから2010 年には2120 億米ドルと約4 倍に拡大し、年率15%強の伸び率で成長を遂げており、中国貿易黒字の主要な稼ぎ手となっている。

また、繊維・アパレル業界の売上高は下図の如く、近年急激に増加しており、2011 年度は52,347 億元の売上高を実現し、世界第二位の規模となっている。このように中国の繊維産業は世界的競争力を持つ代表的産業に発展を遂げてきた。

中国の繊維・アパレル産業の課題

ところが最近、好調な業績の背後に様々な問題が顕在化してきた。2011 年度の繊維・アパレル業界は、売上高こそ堅調に増加したものの、対前年比で利益率が低下し減益となった。

また輸出に関しても2011 年度は、途上国に対する輸出は増加したものの、景気が低迷している欧米諸国からのオーダーが明らかに減少した。また2012 年1~9 月、紡織品と服装の輸出額は1926.93 億米ドルで、前年同期より1.04%成長したものの、伸び率は明らかに減速している。一方、国内市場では市場競争がいっそう熾烈になり、企業は価格競争に苦闘すると同時に在庫の増加に悩み、生産量の調整を余儀なくされ、利益率の減少を招いている。

これら中国の繊維アパレル産業に負の影響を及ぼす主な要素は下図のようになる。

これら諸要因の中でも、中国で顕著なのが労働賃金の急激な上昇である。

以下は中国の平均賃金の推移を示すグラフであるが、2000 年半ば以降、労働市場の逼迫と政府の所得拡大志向が相まって2001 年から2010 年にかけての平均賃金上昇率は15%弱となっており、急激な上昇となっている事が分かる。

しかし、賃金上昇率が高くとも、それを上回る労働生産性の上昇率があれば、生産1 単位あたりの労働コストを示す、単位労働コスト(ULC)はむしろ減少し、実質的にコスト減となる。このULC の推移(下図参照)をみると、中国の製造企業は、2000 年から2007 年頃までは、労働生産性を上昇させる事により、ULC を抑える事に成功してきたと考えられる。しかし、それ以降は労働生産性の上昇率よりも賃金の上昇率が上回るようになり、ULCが上昇傾向に転じた事が見てとれる。2000 年を100 とすると、2007 年の84 が底となり、2010 年時点で90 に上昇している。

この傾向は、中国の名目GDP に占める総賃金の割合の推移とも一致しており、2007 年以降、底打ち反転局面に入っている事が分かる。

このように、労働生産性の上昇率を上回る大幅な賃上げは、単位労働コストの上昇を招き、企業収益に打撃を与えることは間違いない。

さらに、これらのデータには賃金以外の重要な労働コストである、社会保障負担が考慮されていないが、中国では社会保障負担率が非常に高く、その割合は地域により若干異なるものの、給与の4割~5 割にものぼる。これを最低賃金に上乗せして算定すると、賃金が割安な中西部であっても、タイのバンコクを大幅に上回る水準となってしまう。

それだけでなく、中国政府が労働者の権利を利益の保護を主眼として、2008 年1 月に「労働契約法」を施行し、労働者の採用にあたり、書面での労働契約締結が義務化され、契約期間に関しても、最低2年以上の契約が条件になり、勤続10 年あるいは3 回目の更新で終身雇用へ切り替えることが義務付けられた。また労働契約の解消に際し、経済補償金の支払いが義務付けられ、労働コストは単なる賃上げだけでは済まされなくなり、実質的な労働コストは20%以上の引上げになったとも推定されている。

もうひとつの中国固有の深刻な問題は、人民元の切り上げである。

人民元が実際の価値より大幅に低く固定されている事(どの程度低いかは諸説あり)が世界的な貿易不均衡の原因となっていると主張する欧米諸国の圧力の回避及び国内のインフレ抑制等の目的で、2010 年6 月より人民元が管理変動相場制に移行し、当面の間、徐々に人民元高が進行すると見込まれている。

『中国針織網』の試算によると、1%の人民元高で繊維アパレル産業の利益率は2 ~6 %、5 ~10 %の元高であれば、当該業界の利益率は10~60 %下がると推定される。
特に最も影響を受けるのは輸出依存度の高いアパレル産業である。当該産業の輸出依存度は約60 %であり、そのため1 %の元高が進めば、利益率は約6.18 %下がると試算される。

これらの試算によると、輸出依存度が高いアパレル企業にとっては、現在の人民元レートは大変過酷な水準であり、もしこのコスト増加分を何らかの形で吸収できず、更に輸出価格への転嫁もできない場合は、死活の臨界点に近い状況と考えられ、付加価値税還付率が更に低減される可能性を考えると、繊維アパレル業界は淘汰と再編を迫られていると考えられる。

今後、中国の繊維産業が国際的競争優位性を維持し続けるには、以下のような課題を解決しなければならないと考えられる。

(1)コストの企業内吸収
①企業管理レベルの向上
②生産技術・ノウハウの向上
③従業員の流動性を低下させ、定着率の安定化を図る事
(2)コストの産業内吸収生産の産業内連関関係を更に強化し地域内の高い産業集積効果によって、総合コストを抑制する。
(3)非価格要素の優位性創出
国際競争力は価格要素と非価格要素によって決まるが、中国の価格競争力の優位性が次第に低下していく中で、いかに非価格要素の優位性を作り出すかが、総合競争力を維持する必須要件となる。
非価格要素としては、安定的で高い品質、流行に合った企画提案力、短納期の生産計画遂行力、新素材と新工法の技術開発力、小ロット多品種などが挙げられる。

このような課題意識を持ち、適切な対応を行わなければ、中国の繊維産業の高度化は期待できず、そうなれば、新興国の繊維産業が成長した時、中国の繊維産業の後退が現実になる恐れもあり、中国の繊維アパレル産業は今、過渡期に差し掛かっていると言えるだろう。

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