中国自動車産業レポート

中国自動車産業の概況

13 億人の巨大な人口を持つ中国の自動車市場は、2000年頃までは1人当たりの国民所得が低いため乗用車の購買力が無く、トラック等の商用車を中心とした市場が形成されていた。しかし中国経済の開放政策への転換やWTOへの加盟を転機として中国経済の成長が加速し、乗用車市場は年率二桁台の高い成長が始まった。現在は中国の富裕人口の増加を背景に中国の新車販売台数は急増しており、世界の自動車生産と販売の中心となりつつある。国内の生産量と販売量は共にまさに急激な増加基調にあり、2009年度の自動車の生産台数は1,379.10 万台、販売台数は1,364.48 万台となり、2008年度と比較して生産台数は48%、販売台数は46%成長し、不況に喘ぐ米国を抜き世界一となった。

そして2010年度もその成長の勢いを維持し、生産と販売が共に1800万台を突破し、過去10年間で約7.7倍と激増した。

その結果、世界総生産量に対する中国のシェアも急増している。

以下は2010年の国別の販売台数とそのシェアを示しているが、中国が世界全体の26%を占めるまでに躍進しており、二位の米国との差が大きく開きつつある。

2009年度の世界トップ500社には、中国の上海自動車グループ(359位)、第一自動車グループ(385位)、南方工業グループ(428位)の三社が入選した。現在、年間販売台数100万台以上の国内自動車生産企業は5社あり、そのうち上汽の年間販売実績は200万台を超えている。販売ランキングトップの上位10社は国内市場で8割以上のシェアを占め、市場集中度はいっそう高くなった。2012年現在、中国自動車生産業の市場規模は4000億元(約640億ドル)を超えている。

昨今の中国自動車産業の5つの課題

  • ① コア技術が欠乏し、重要部品は依然として輸入に依存している。
  • ② 外資及び合弁ブランドの製品がよく売れるのに対し、国内ブランド製品は人気が低い。
  • ③ 自主開発の自動車は外観からLOGO(エンブレム)まで、外車を真似るものが多く、固有の特徴が殆どない。
  • ④ 近年、大排気量SUVと豪華車の市場シェアがますます高まり、環境破壊や燃費高騰など社会問題を更に深刻にした。
  • ⑤ 2012年、政府は「新エネルギーカー発展戦略」を発布し、ハイブリッドカーと電動自動車の研究と開発を積極的に推進する方針を定めた。

日系自動車メーカーの市場シェア

2005~2007年の間、日系車は中国市場で一時30%を超えるシェアを誇り、2007年には欧米車をおさえ中国におけるトップシェアを獲得したが、その後、徐々にシェアを落とし、2012年度、ネガティブ報道の増加につれて販売量が減少し始め、特に「島購入事件」以来、日系車のシェアが急激に下落した。
近年、国内市場におけるニッサンのシェアが継続的に拡大し、2010年時点の6.0%から2012年上半期は7.1%に増加し、トヨタを超過した。一方、トヨタとホンダのシェアが2010年時点の6.9%と5.7%から今年上半期の6.5%4.7%に減少し続けている。他にスズキ、マツダ、三菱の各社は販売実績と市場シェアが共に下がり、市場から周縁化される模様となった。

自動車産業の展望

中国は2000 年代初めに入り沿海部大都市地域を中心に、本格的な「モータリゼーション」の局面に突入し、2011年末には中国の自動車保有台数は1億600万台に達したといわれている。しかし、中国自動車市場は、13 億人の人口を抱え、潜在市場は膨大である。外資系が参入してきた市場は、沿海部の大都市を中心としたほんの一握りの市場にすぎない。

外資系企業の今までの焦点市場は、日本メーカーでいえばアコード、カムリ、ティアナなどの高価格の中大型車が中心であった。日本メーカーは、中国市場に参入する段階では、モータリゼーションが立ち上がりつつある沿海部の大都市を中心に、高所得層に向けて中大型車の高価格車を投入し、著しい成果を上げてきた。

しかし中国の主力市場は、小型車(1000~1600cc)が市場の半数近くを占めており、1000cc 以下の微型車(日本の軽乗用車に相当)を加えるとシェア60%近い市場を形成する。
そして現在中国は、モータリゼーションの第2ラウンドを迎えている。所得水準の向上に伴い、顧客層は一部の高所得層から勤労者の「中間所得層」へと広がりを見せているのだ。

以下は中国の平均賃金の推移を示すグラフであるが、2000年半ば以降、労働市場の逼迫と政府の所得拡大志向が相まって2001年から2010年にかけての平均賃金上昇率は15%弱となっており、急激な上昇となっている事が分かる。

一般的に、1人当たり国民所得が3000 ドル程度まで経済成長が進むと、モータリゼーションが進行し、自動車普及のスピードが加速される。

現在、中国政府は地域間の所得格差の是正に取り組んでおり、沿岸部に比べて発展が遅れている中西部でも平均所得が3000ドルを超える都市が増加している。またリーマンショック後に、先進国自動車市場が大きく冷え込む中、中国政府が打ち出した1.6リットル以下の小型車への減税措置や農村への自動車普及を促進する「汽車下郷」政策による補助金支給もあり、そうした政策措置等によりモータリゼーションの進行は一部の沿海部の大都市から内陸部の二級都市、三級都市へと広がりを見せている。マッキンゼー・アンド・カンパニーは、2020年にかけて中国の新車販売台数は年間8%程度の伸びが期待され、欧州及び北米市場の合計を上回り、世界の新車販売台数の35%を占めるまでに成長するとの予測を発表している。

それとともに自動車のニーズは多様化し、当面は「中間所得層」の台頭とともに、小型車、低価格車のセグメントが拡大する事が予測される。

しかし中国政府としては、マクロ経済を発展のために自動車産業の拡大は望ましいものの、現状の燃費水準のままではガソリン消費量の急増を招くため、石油輸入のこれ以上の増加にはどうしても歯止めをかけたいところでもある。それに加えて昨今の自動車数の急増により大都市を中心に交通渋滞、大気汚染の環境問題が深刻化している。これまで上海や北京等の大都市で実施されていた自動車の新規登録規制(ナンバープレート規制)が、他の人口1000万人以上の大都市にも全面的に拡大する方向で検討されているともいわれており、今後の政策動向には注意が必要である。

このような事情から、中国政府にとっては、省エネ車あるいは新エネ車を普及させることが望ましいと言える。政府は2010年6月から燃費効率の良いエコカー購入者に補助金を支給する制度を実施し、省エネ補助金政策が採用されている。さらに、2012年1月1日からは、2007年7月から開始された一種の財産税として登録された車両や船舶に対して徴収される車船税を省エネ車は半減とし、新エネ車には免除するという措置がとられることになった。

2012年初頭、政府は「新エネカー発展戦略」を発布し、ハイブリッドカーと電動自動車の研究と開発を積極的に推進する方針を決めた。今後数年間は新エネカー産業の重要な発展時期で、技術導入と部品産業の整備がいっそう強化されると思われる。日系企業は新エネルギーカー開発の面でさまざまな先端技術を持っている為、関連商品の市場競争に優位を維持できると考えられる。

現時点では完成車産業も部品産業も、大部分の国産企業はコア技術を持っていないため、その競合力がローエンド市場に限られている。日系企業にとって、最大のライバルは欧米自動車企業の製品となるだろう。もしさらにシェア拡大を求めるなら、日系自動車企業は政治問題の影響をうまく回避すると同時に、自動車の安全問題と燃費問題の解決に注力する事が重要であると分析される。

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