中国不動産関連産業レポート

中国不動産関連産業のマクロ概況

中国の不動産価格は1998年の住宅取得制度改革を契機として、2000年以降、概ね右肩上がりで推移しており、2008年秋のリーマンショック後、一時調整局面を迎えたものの、2009 年から10年にかけて再び騰勢を強めた。

下図は、商品不動産の販売額と主要都市の平均価格の推移であるが、2011年の販売額は、5兆9119億元(前年比12.1%増)、販売面積は10億9946万㎡(昨年同期比4.9%増)となり、最近は伸び悩みつつも販売額及び販売面積は2008年以降一貫して増加している。

このように急速に不動産販売額が増加した背景の一つに、投機的要因がある。

まず、下図の如く、断続的に続くマイナスの実質金利が、投機資金の不動産市場への流入の背景となっていることが挙げられる。

また、2008年の世界金融危機発生後に4兆元(約56兆円)の景気刺激策が実施された事で市中への流動性の流入が加速し、さらに刺激策の一環として、地方政府が設立した投資会社、融資平台等が主体となり不動産関連の投融資を加速させた事が、近年の不動産価格高騰の一因となっている。
以下は、過剰流動性の程度を示す代表的指標である「マーシャルのk」であるが、08 年以降急速に高まっていることが分かる。

さらに、金融市場が発展途上であり資産運用のための金融商品が限られていることも、投機資金の不動産市場への流入を促したと考えられる。上海総合株価指数と住宅価格の推移をみると、住宅価格が金融緩和時には上昇しているのに対し、株式指数は必ずしも同様の動きをしていない。中国の株式市場は多くの取引規制が存在していることや不動産の転売によって得られるキャピタルゲインとの比較においても、株式市場よりも不動産市場へより資金が流れやすい構造が存在しているといえる。

このような不動産市場への資金流入を背景に、特に高級住宅は投機の対象となり、不動産開発業者は利益率の高い高級物件の開発を優先した。その結果、住宅購入意思のある中低所得者層が購入可能な価格帯の住宅供給は、需要に追い付いていない状況にある。

投機的資金が不動産価格を押し上げてきた一方、堅調な実需も存在している。まず現在の中国では都市化が進行しており、農村戸籍保有者の都市への流入が続いており、潜在的に底堅い実需が都市部の不動産市場には存在しているといえる。

近年、農民工の地方都市への回帰現象も起こりつつあり、今後は大都市のみならず、地方都市への緩やかな流入が当面は続く見込みである。

また人口の流動化と核家族化の進行も加わり、一世帯当たりの人員数は2000年の3.44人から2010年には3.10人に減少している。今後、日本と同様、少子高齢化社会に移行するに伴い、単独世帯数が増加する事が予測され、一世帯あたりの人員数が減少する事が予測される。さらに中国の人口は2030年までは増加する見込みであり、人口動態からも当面の間、住宅実需は根強いものがあると考えられる。

また、過去に不動産バブルを経験した他の国々と、住宅価格と経済のファンダメンタルズを示す名目GDP、可処分所得、及び都市人口の推移について比較してみると、中国の住宅価格はファンダメンタルズと大幅に乖離した上昇をしているわけではなく、むしろ名目GDPと可処分所得の騰勢が、住宅価格の上昇率を上回っている。
ただし、大都市の北京や上海では、住宅価格の上昇率が、可処分所得の上昇率を大きく上回り大幅な乖離が見られることは注目に値する。

中国不動産関連産業の課題点

一方で、北京・上海等の主要都市の平均価格は2011年をピークとして2012年にかけて多くの都市で、小幅ながら住宅価格は下落に転じている。

その背景には不動産のバブル化を抑えるために、2005年頃から政府が全国の一級都市と一部の二級都市を主要対象として実施した一連の不動産引き締め政策がある。

下表は近年の主な不動産抑制政策の一覧であるが、セカンドハウス(二軒目の住宅)購入の頭金比率の引上げ、当地戸籍非保有者の住宅購入制限等、投機需要を抑制することを主な内容とする不動産価格抑制策をたびたび打ち出しており、特に11 年度の価格抑制策が不動産市場に与えたインパクトは大きく、同年半ばくらいあたりから価格が横ばいあるいは低下する都市が増加している。

こうした最近の住宅価格の緩やかな下落や住宅投資の減速は、景気の持続性を確保する上で望ましい動きとして捉えることが出来る。しかし、これまでの不動産ブームが、不動産向け信用の拡大に繋がってきた点には注意が必要である。特に2009年以降、非常に緩和的な金融環境が維持された中、大量の資金が住宅市場に流入している。

中国の家計及び企業部門のバランスシートをみると、家計部門は住宅・不動産ブームの影響をそれ程受けておらず、家計債務残高は増加しているものの、名目GDP 対比で20%弱と新興国の中でも低値に留まっている。企業部門については、一頃と比べると債務水準は高まっているが、全体としてみるとその水準は高くない。しかし、企業部門の中でも、不動産ディベロッパーに限定すると、2000 年代半ば以降、経済成長率を大幅に上回るペースでバランスシートが拡大しており、金融引き締めが強まった2010 年に入っても縮小していない。

また2000 年代半ば以降、不動産ディベロッパーは、住宅価格の先高観もあって、積極的に土地を購入し開発を進めてきた。この結果、住宅着工床面積は現在に至るまで急速に拡大している。一方、住宅完成床面積はそれ程増加しておらず、結果として「建設中」の住宅床面積が増加している。こうした建設中床面積は、不動産ディベロッパーが保有する潜在的な「住宅在庫」と解釈することも出来る。

資産サイドで住宅在庫が急増したことに対応し、不動産ディベロッパーの負債・資本も2010 年末には約22 兆元(約270 兆円)まで拡大した。2000 年以降のバランスシートの拡大幅を名目GDP 比率の変化幅でみると、+30%ポイントを超える(図表3)。これは、米国家計の2000 年代半ば以降の住宅ローン残高の拡大幅に匹敵する。

こうした不動産ディベロッパーのバランスシート拡大に、銀行貸出は表面上、あまり寄与していない。上図の資金調達の内訳をみると、不動産ディベロッパー向けの銀行貸出はそれ程増加しているわけではない。前述の不動産投資抑制政策により、不動産関連の銀行融資制限が強化された事もあり、銀行以外から借り入れたり、出資を受け入れたりする動きが目立っている。

このような銀行システムを直接介さない不動産ディベロッパー向け信用の実態については不明瞭な点が多いが、銀行貸出は間接的な形で、こうした資金拡大の一部に影響していると考えられる。特に世界金融危機直後の2009 年から10 年にかけて、銀行は融資平台や国有大企業向けに低利貸出を大幅に増やしたが、これが銀行システムを直接介さない信用拡大の源泉の一つになったと指摘されている。

また近年、銀行融資規制が強化された事により、不動産企業が土地使用権を売買する際、銀行方面の資金支持を取得できない事となり、不動産ファンド業界が急速に発展した2010年頃より多くの不動産ファンドが設立されるようになり、わずか一年間のうちに数百社の不動産ファンド管理社が設立され、ファンド規模としては1千億元を上回り、2012年には2000億元に達した。分析によると、今後10年間で、全国の不動産購入需要量は約120億平方メートルであると推計される。しかし、不動産企業は厳しい資金不足に陥っており、故に不動産ファンド業界は今後も持続に発展すると考えられている。

こうした信用拡大については、資金の流れを把握し難いことから、最終的なリスクの所在に不明瞭な点があることも特徴である。不動産業の資金調達のうち、「自己資本」や「その他負債」ついては、前述の如く銀行からの借入を原資としたものも含まれている可能性がある。そのため、例えば、不動産ディベロッパーの経営悪化は、こうした先へ投融資を行っている金融型の融資平台の信用力低下などを通じて、銀行部門にも影響を及ぼすリスクがある。

一方、「その他負債」の相当部分を占めるとみられる家計、不動産ファンド、企業による頭金などの支払い等は、不動産ディベロッパーにとって安定した資金調達源であると考えられ、当該部分については、住宅価格の変動リスクも家計や企業に移転していると考えられる。

このように不明瞭な資金の流れから、マクロ的な影響を厳密に評価することは困難であるが、不動産向け信用の拡大ペースを考えると、不動産ディベロッパーの経営問題が深刻化した場合、経済全体に影響が及ぶ可能性は高い。不動産投資はGDPの1割以上を占めており、あまり厳しく制限すると、マイナスの影響が出てくる懸念もある。新規住宅が次々と竣工し、在庫が拡大することにより、不動産業界は体力勝負の様相に陥り、販売力や資金力が強い大手企業は何とか利益の増加を確保できたものの、多くの中小企業は業績が悪化し、資金繰りに苦しむ企業も多く出ている。

しかし長期的観点でみれば、不動産ディベロッパーは住宅在庫の増加に歯止めをかけ、不動産向け信用の急速な拡大を抑制していくことが望ましいと考えられる。こうした調整が進まなければ、中国の住宅市場は不安定な要素をなお抱え続けていく可能性が高い。

中国政府は、これまでに住宅市場の過熱を抑制する姿勢を鮮明にしており、融資平台向け貸出についてストレステストを実施するなど、住宅市場や金融システムの安定性を意識した対応策を強化している。このような政策対応により、長期的に住宅市場や金融システムがより安定性を増していくことが期待される。

Copyright (C) 2012 JC BRIDGE All rights reserved.